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福島家庭裁判所 昭和48年(家ロ)124号 決定

申立人 園田ユキ(仮名)

主文

本件異議申立はこれを却下する。

事実及び理由

本件異議申立の要旨は、申立人園田ユキ(本件申立人)相手方二宮正間の当裁判所昭和四三年(家イ)第二五四号遺産分割事件で、同四四年四月一九日調停が成立したが、これが調書の記載は、家事審判法第九条乙類第一〇号の審判事項に関する調書の記載なので、同法第二一条第一項但書第一五条により、確定した審判と同一の効力を有し、執行力を有する債務名義であるところ、上記調停成立後、該調停で、本件申立人に宅地を売却し、直ちに、これが登記手続を約した上記宅地所有者で該調停の相手方二宮正は、その目的宅地を同人の子二宮徳夫に贈与してしまつたから、その間に債務の承継があつたものというべく、申立人は、上記債務名義に基づき、二宮徳夫に執行するため、承継執行文の付与を受けなければならないが、これが付与を拒絶せられ、これを受けることができないけれど、民事訴訟法第五一九条第五二〇条は乙類審判事項に関する調停調書の記載にも準用せられるものと解せられるから、本件執行文付与の申請を拒絶した裁判所書記官所属の福島家庭裁判所に、これが異議申立に及ぶ次第であるというにある。

本件記録によると、申立人主張の通り調停が成立したことは明白であるが、その内容は、被相続人二宮照夫の相続人園田ユキ同二宮正間で、同被相続人の遺産分割の調停が成立した際、これに併せ、相続人間で、申立人主張の通り二官正の所有宅地につき申立人に売却する旨の調停の合意が成立したものであるから、この部分の調停の対象は、家事審判法第九条乙類第一〇号の審判事項でなく、同法第一七条の家庭に関する事件についての調停事項に該り、同法第二一条第一項本文により、その部分に関する調書の記載は、確定判決と同一の効力を有するにすぎず、当然執行力が有るものといえないから、これが執行のため、債務の承継前は執行文の付与を、承継後は、承継執行文の付与(同法第九条乙類審判事項もこの点は同様である)を必要とするものであるところ、申立人主張の事実は、それ自体から特定承継の事実を主張し、承継執行文の付与を必要としているので、按ずるに、民事訴訟法第五一九条第一項には、債務者の一般承継について規定し、債務者の特定承継について定めがないが、執行力の範囲に関する規定に準拠して考覈すれば、特定承継はこれを除外すべき理由がないから、これを含む趣旨に修正して解釈すべきであるといわなくてはならないけれど、申立人主張の承継があつたとする事実は、これを調停調書の債務名義が当事者以外にもその効力を有するものとされた者に対する売却とはいい難く、結局、該調停調書の執行力が及ばない者に対する譲渡というほかないから、申立人主張の如く特定承継があつたものとすることはできない。

よつて、本件申立は相当でないとして却下すべきものとし、主文の通り決定した。

(家事審判官 早坂弘)

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